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彼女の声を聞くと胸が詰まる。
姿を見ると苦しくて堪らない。
それなのに、手の届く範囲に気配が感じられない
それだけで、気も狂うほどの焦燥が込み上げる。
最初は搭載されたシステムの不具合を疑った。
当然のことだ。
見た目どれほど人めいていようとも、
彼はただのアンドロイド、姿形を模したのみの機械なのだから。

この、人にとっての感情と呼ばれる感覚は、
アレックスが抱くべきものではない。
万が一彼がそれに近しい感覚を感知することがあったなら、
それらはデータ提供者の過去の経験を踏襲し、
場面場面にふさわしい反応を用意された範例の中から
適宜使い分けているだけの話であって。

今ある彼の表情や、時々にカガリに贈られる
アレックスの気持ちを映した……とカガリが
何の疑いも抱かずに受け止めているに違いない、
声音や口調、常々甘すぎると揶揄される彼の主への対し方、
そして恐らくはこんなにも切実に守りたいと願う
必死の想いに至るまで、
オリジナルであるアスラン・ザラから受け継いだものに過ぎない。

なのに、彼女が愛しくて堪らない。
想う気持ちが止められない。
機械である彼にそんなこと、あるはずもないことなのに。

アレックスは彼女の忠実な、そしていつでも使い捨てられる、
感情を持たない便利な駒として作られた。
カガリの為に。ただそれのみが
アレックスの存在意義であることを思えば
当然のことと言えただろうが、

果たしてオリジナルのアスラン・ザラは、
彼のみが大切に抱き続けていただろう、
こんなにも私的でセンシティヴな感情を、
アレックスに分け与える可能性を想定に入れていたのだろうか。

命に代えても惜しくない、恋しい人。
もしも彼女を他者に委ねて消滅したのが
アレックス自身であったなら……自分以外の存在が、
例えそれが自身の劣化版コピーであったとしても、
彼に等しく彼女に特別な感情を抱くなど許せない。

近しく彼女を見守ることは愚か、視線を合わせて微笑むことも、
彼の代わりに触れ合うことも。
まして自分の代わりに擬似的な恋人関係を、
繊細な想いを傾けて肌を合わせて慈しむなど、
言っては何だが絶対に我慢ならないと感じてしまう。

紛い物の自分に愛する人を、全身全霊を傾けて
彼女を守る権利を分け与えてくれたオリジナルに感謝する。

だがそれと同じくらい彼女が彼を、
オリジナルのへの変わらぬ想いと渇望を隠さない、
一途な琥珀に苦しさが募る。
死してなお、彼女を捕らえて離さない
オリジナルの傲慢に苛立つ感覚が止まらない。

しかし、オリジナルとの永遠を
自らの内に見出すことを迷いなく望む、
彼女の彼への誠心に幸福を感じ満たされる
不可解な感覚も確かにあって。
彼が愛した人だから、自分は彼女に惹かれ続ける。

アスラン・ザラが今もこの場にあったなら、
きっとカガリに抱き続けていただろう恋をそのままなぞり、
選んだはずの行動を正確に遵守し続ける。
アスラン・ザラが命を賭けて重ね続けていくはずだった、
カガリ・ユラ・アスハの平穏な未来を彼亡き後も適正に守り補って。

すべては彼が望んだことだ。
だがそれは、彼女の恋人に成り代わり、
心と身体を重ねたり彼女を愛し慈しむなどと言う意味ではなかった。

唯一にして絶対の、主の日々を平穏に保つ。
それこそが、アレックスに期待されたオリジナルの製作意図だ。
今のアレックスは、オリジナルの意図を裏切ってここにいる。

当初はそうした不条理を、一時的なバグとして割り切っていた。
でも今は、それだけのことが難しい。

全体をスキャンに掛けて、
ハードとソフト双方に不具合がないことをしつこいほどに確かめた。
これを優秀な技術者だったアスラン・ザラの手に寄る
高性能AIの学習能力の、進化の賜物であるとするならば、
素直な賞賛しか出てこない。

単に調整を受けた機械仕掛けの人形が、
突き詰めて言えば過去の事実を書き連ねただけの
無味乾燥なデータの羅列に過ぎないアレックスが、
オリジナルに嫉妬や羨望、彼同様に
彼の愛するただ一人の女性に獣じみた欲望を抱く。

そんな状況に違和感が隠せない。
彼は……オリジナルは何を持って
こんな調整を自分に施したりなどしたのだろうか。

考えたところで意味はない。
しかしわかっていても、気づけばそれを繰り返し、
答えを探す自分がいる。

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