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「おかしいと思ったら、やっぱり夢か」

道理で都合が良すぎると思ったと、
アスランはベッドの上、乱れた髪をかき上げる。
枕元のデジタル表示を確かめてみれば、
時刻は早朝五時少し前。

夢の中で彼女を翻弄したときは
アラームをセットしたつもりなどなかったから、
睡眠不足が続こうと、夢でどれほど魅惑のときを過ごそうと、
定時で目覚める律儀な癖は治らないらしい。

どうせならもう少し、夢の世界に居座ればよかったと
正直なため息が溢れてしまう。
起き上がった拍子、今日の日付が目に入って、
自分の誕生日であることに気がついた。

そう言えば昨日ラクスから『明日は公務でご連絡ができませんので、
残念ですが今日のうちにお祝いを申し上げておきますね』
との連絡が入っていたから、それであんな夢を見たのかもしれない。

「夢だったのは残念だけど、ラクスには
御礼を言っておかなきゃいけないかもな」
小さく笑って呟いて、夢のカガリに従って、
プライベートのメールと着信を確認する。

キラを筆頭にイザークやディアッカ、
まさかのシンやメイリンからまでお祝いメールが届いていた。

とりあえず戻ってきたら返事をしようと端末を閉じて、
カガリからのメールがないことに、少しだけしょげる。

彼女は今日、午前にオーブを出発し、
午後からは他国での会談を控えていた。
しかも相手は非同盟国の代表だ。
どれほどの緊張を強いられているかわからない。
そんな彼女に一言であれ、
誕生日の祝いを期待するのはあまりに配慮がなさすぎる。

我ながらつける薬のないことだとアスランは、小さく肩を竦ませた。
のろのろと寝不足の身体を叱咤して、
とりあえず熱めのシャワーで喝を入れる。

当然ながら昨夜カガリが作ってくれた、
と夢で見た食事の残りなどあるわけもなかったから、
朝食は買い置きのゼリー飲料で簡単に済ませ、アスランは早めに家を後にした。

到着はなんと六時前。いかに上司に似て勤勉な
アスランの部下たちであろうとも、さすがこの時間には
徹夜組以外は姿がなくて、
アスランはふと思いついて中庭へと足を運んだ。

空は快晴。早朝の風が心地いい。
ベンチに座って休憩でもするかと足を運んだアスランの前に、
信じられない人物が飛び込んでくる。
中庭の噴水脇のベンチの上に、まさかのカガリが眠っていた。

「……何故カガリが、こんなところで寝てるんだ?」
思わず地面に膝をつき、眠る彼女を伺った。

すやすやと眠る横顔は、どこか満足そうに微笑んでいて。
アスランはカガリの横になったベンチの脇に
座して背中を預けると、スラックスが汚れるのも気にせずに
両足を投げ出して空を見上げた。
あんなにも塞いでいた気持ちが一気に軽くなっていく。

夢でなく、本物のカガリが今アスランの隣にいる。
ただそれだけで、幸せな気持ちがこみ上げた。

「ありがとう。カガリのおかげで今日は一日、
最高の気分で過ごせそうだ」

横目に恋人を眺めながら、アスランは
彼女の薄く開いた可憐な桜色に楽しげに指先を滑らせた。

満足そうに背中を丸め、幼子のように眠る愛しい人。
不意に強まった風から彼女を庇うべく、アスランはカガリに身を寄せる。
巻き上げられる眩しい金糸。華奢なうなじが顕になって、
ひっそりと置かれた薄紅色の小さな花弁がアスランの視線を釘付けにする。

「……ちょ。え?でも……」
嘘だろと彼女の襟に手を延べて、
垣間見えたそれを確認しようとした彼を、
ぱちりと開いた飴色の琥珀が引き止めた。

「あす、らん……?」
「カガリ……」

おはようと言ったらいいのだろうか。
それとも何故君がこんなところにと?
と言うか、今視認した、
どう見てもキスマークとしか思えないあれは何なのか。

聞きたいことは山ほどあるが、
茫洋と寝起きの瞳を惑わせる頼りない彼女を
抱き寄せることの方が先かと思う。

「大丈夫?」
「うん。なんか気づいたら寝てたみたいで」

昨日あんまり寝てなかったからと、はにかむカガリが
アスランを見上げ、
待った、その顔はちょっと反則とアスランが片手で口許を覆った。

「何でまた、あんなところで寝てたんだ?」
「まだ執務室の鍵が開いてなくて」

「まあ、そうだろうな。
さすが六時前じゃ秘書官たちだって
鍵は開けておかないだろう」

「そこはわかってたんだけど、早すぎて行くとこなくってさ。
屋敷に戻るのはきまずいし。
で、中庭に出て来てみたら、今度は気持ちよくてつい」

ふわあと大きなあくびとともに、
照れた様子で微笑まれ、アスランがごくりと喉を鳴らした。

「あの、さ。カガリ」
「ん?」

「聞きたいことがあるんだけど」
「何だ?」

「その……昨日君、俺の部屋まで来てくれた?」
「……え?」

「その後朝まで一緒に過ごしてくれて、
もしかして今ここにいる?」

「そ、そんなことあるわけないだろう、おかしな奴だな!
アスランのお誕生日は今日じゃないか。
昨日祝ってどうするんだよ」

大方夢でも見たんだろ。
今日はおまえと一緒にいられなくなっちゃったから
そこは悪いと思ってるけどと、
やけに無理やり視線を逸らしたカガリが言って、
アスランが確信したように彼女の肢体を抱き締めた。

「ありがとう」
「な。なんだよ。
礼言われるようなことなんかしてないぞ!」

「今日いられないから、
昨日を今日にしてくれたってことだろう?」

「何言ってるんだ。
アスランおまえ、絶対自意識過剰だぞ!」

「……じゃあ、とっておきの切り札を聞かせようか。
俺は君が誕生日祝いに来てくれたなんて言ってない。
それに、襟についてるキスマーク。
俺たちは、昨夜以外は一緒に過ごせていないから、
それは昨晩俺がつけたものだろう?
もしそうじゃなかったら、カガリには俺とは別に、
特別な夜を一緒に過ごす男がいることになる」

「ば、馬鹿言うな!アスラン以外と
特別な時間を過ごすだなんて、
何があろうとあるわけがない!」

「だよな。そしてこのからくりの影の協力者はラクスだ。
昨日のうちに俺に布石を打っておいてくれた」
微笑むアスランがカガリの頬を包み込む。

「俺が誕生日を忘れてて、
夢なんか見るわけ無いと思わないように。
夢で過ごした君との時間が余韻となって、
朝起きてからの一日を幸せな気持ちで過ごせるように。

二人して、随分と凝った仕掛けを考えてくれたものだ。
嬉しかった。でも本音を言えば目が覚めて、
あれが夢だとわかったときは、とても寂しかったから」

事実を聞かせて安心させて?と
微笑みながら口づけの雨を降らせるアスランに、
カガリがとうとう降伏をあげた。

「……ごめん。今日一日、
アスランとは会えない予定だったから、
できればがっかりさせたくなくて」

「うん。昨夜貰った君との時間があまりに幸せだったから、
今朝起きて、今日はカガリといられないって気がついたとき、
想像以上に落ち込んだ」

自分ではそこまで気になんかしてないとばかり思ってたのに。
笑って言ったアスランに、
カガリが申し訳なさそうに身を縮めた。

「うん。わかる。私も一緒にいたかった。
だからラクスに相談して知恵を絞って貰ったんだけど」

「ありがとう。おかげで昨夜と今朝の二度、
結果的にカガリと過ごすことができた」

「帰ってきたら改めてお祝いするからな?」
「……待ってる」

結局のところ前日と当日、戻ってきてからの週末と、
通算四日ほど最愛の恋人を独占することを得たアスランは、
例年にも増して幸せな時間を過ごしたらしい。

ちなみにラクスからは『今年の誕生日祝いは、
貴方の一番お喜びになるときを』でとの
メッセージカードが遅れて届けられたとか。

数日後、ラクスのもとにアスランから感謝とともに、
色違い新しいハロとカガリとアスラン並んでの
ツーショット写真が届けられ、
プラントの女神はことのほか喜んでくれたとのことである。


       おしまいです★
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