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「新婚、旅行……」
「うん」

「アスランと私、二人きりで……?」
「うん。俺は凄く行きたいんだけど。カガリはどう?」

俯いたカガリが小さく拳を握りこんで、
ソファの上からさりげなく彼女の様子を伺っていたアスランが、
驚いた様子で腰を浮かせた。

「……く」
「ん?」

「絶対行くに決まってる!」
「つまりそれは……喜んでくれたって取ってもいいの?」

「当たり前だ。おまえから
そんなこと言ってくれたら喜ばないわけないだろう!」

濡れた手を拭くのももどかしく、
キッチンから飛んで戻ったアスランの愛しい新妻は、
ソファに座った夫に向けて走り寄った。

「行きたい!どこでもいいからアスランと旅行。
凄く嬉しい。正直おまえから誘って貰えるなんか、
思っても見なかった。ありがとう」

彼の首へとしがみつくように抱きついて、
眩しい笑顔のカガリが言った。

「良かった」
アスランも同じく笑顔でカガリの身体を抱きしめてくれる。

「だけどごめんな。本当は疲れているんじゃないか?」

だけど、こう言うときでもないと
長期休暇は無理だもんなと申し訳なさげにカガリが言うも、
アスランはとびきりの笑顔だった。

「疲れてなんかいるもんか。
今回はキサカさん、新婚のときくらい
奥さんの我侭を聞いてサービスの一つもしてやれって言って、
仕事も随分とおまけして貰ったし」

「お、奥さん?キサカがそんなこと言ったのか?!」

「そう、カガリは俺の奥さんだって言ってくれた。
何か嬉しい響きだろ?キサカさんだけじゃないぞ。
エリカさんやほかの人たちからも言って貰った」

嬉しかったと微笑んで、ちゅっとアスランがカガリの額に口づける。

「その……怒ってないか?本当は気づいているんだろ?」
「何が?」

「職権乱用して、特別休暇捩じ込んだこと」
「怒ってないよ」

と言うか、カガリ。
君、そんなことしたんだと
可笑しくてならないようにアスランが言って。
本当に?とカガリが不安を浮かべて彼を見上げる。

アスランの態度や表情を見れば、
不快になど思っていないのはよくわかる。
だが、日頃から破格に責任感の強いカガリのこと、
アスランやキサカからすれば大したこともない

……そもそもできないことを
キサカやアスランが許すわけもないことを思えば、
本当に他愛もないカガリの『願い』をたった一つだけ、
珍しくも叶えたに過ぎないのだけれど。

それであっても私的に権力を行使したことが、
よほどに申し訳なくてならないのだろう。
後ろめたそうに、何度もアスランを
上目遣いに伺ってくるカガリがあまりに可愛くて。

「そうだな。じゃあ、特別に許して上げる」

勢いよく両手を伸ばすと愛する妻を抱き込んで、
胸に閉じ込め頭を撫でたアスランが、
彼女の顔を覗き込んでくる。

「怒ってないよ。むしろ俺こそ感謝してる。
ありがとう。素敵な時間を俺にプレゼントしてくれて」

カガリがほっと息をついた。
いつもならこんなことした日には、
人をペット扱いするなと可愛い顔で拗ねて寄越すのが
常なのだけれど、今回ばかりはされるがまま。
アスランに甘えてくれる愛らしいカガリに、
アスランは思わず調子に乗った。

「じゃあ、許す代わりに一つだけ俺の我儘を聞いてくれる?」
少しだけ声を落として囁くと、カガリの肩がびくりと跳ねた。

「な、何だ?」
そんなに怯えなくったって、いいものを。

今にも笑いだしたいのを必死に抑え、
アスランは殊更に真面目な顔を作って、
カガリの耳に唇を寄せる。
内緒話でもするように、
低めた声を可憐な耳朶に吹き込んで。

「旅行の間、二人っきりのときにしか
できない特別なことをしてみたい」
「特別なこと?それって……」

何だ?と尋ねるカガリの首に、そっと唇を押し付ける。

「具体的には内緒かな。
詳しいことは、あちらに行ってからのお楽しみ」

あぁ、でも。もしもカガリがどうしても気になると言うのなら。

「今夜ベッドで実地を交えて教えて上げる」

囁かれた言葉の意味を理解するにつれて、
段々と赤くなっていくカガリに向けて
「駄目か?」
アスランは見た目穏やかに笑いながらの駄目押しを重ねる。

カガリはあわあわと一人混乱していたけれど、
彼女の夫は当然ながら動じてくれる風も見えなかった。

「していいんだろう?いかにも新婚らしいこと」
揶揄するように甘く微笑むアスランに言われ、
カガリはとうとう覚悟を決めた。

「おう。任せろ!」
ごくりと息を飲んだ上、男前な答えが彼女から返る。

「と、特別に何であろうと叶えてやる。
大船に乗ったつもりで何でも私に言うがいい!!」

言い切ったのちに、困った風に
顔を隠すように抱きついてくる彼女に
アスランが今度こそ破顔する。

ありがとう。
楽しいこと、思い出になること、二人で一杯しようなと、
抱き締めてくるアスランに、カガリも笑顔で口づけた。

                      おしまいです★

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